大判例

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福島地方裁判所 平成元年(行ウ)7号 判決

原告

上原征一

右訴訟代理人弁護士

金住則行

加藤朔郎

復代理人弁護士 櫻田喜貢穂

被告

福島県

右代表者知事

佐藤栄佐久

右指定代理人

大塚隆治

二瓶誠慈

佐藤昇

渡辺義弘

佐藤勇一

新田公夫

菅野直樹

山岸義雄

林俊幸

山下喜光

東間孝文

吉田治久

大越規彰

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  河川法は、河川の流水が継続して存する土地及び地形、草木の生茂の状況その他の状況が河川の流水が存する土地に類する状況を呈している土地(河岸の土地を含み、洪水その他異常な天然現象により一時的に当該状況を呈している土地を除く。)の区域(六条一項一号)、河川管理施設の敷地である土地の区域(同項二号)、堤外の土地(政令で定めるこれに類する土地及び政令で定める遊水池を含む。)の区域のうち、第一号に掲げる区域と一体として管理を行なう必要があるものとして河川管理者が指定した区域(同項三号)をいずれも河川区域と定め、かかる区域内の土地において土地の掘削、盛土若しくは切土その他土地の形状を変更する行為又は竹木の栽植若しくは伐採をしようとする者は、建設省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならないとされ(二七条一項)、河川管理者は、これに違反した者に対して、工事その他の行為の中止、工作物の改築若しくは除却、工事その他の行為若しくは工作物により生じた若しくは生ずべき損害を除去し、若しくは予防するために必要な施設の設置その他の措置をとること若しくは河川を原状に回復することを命ずることができる、とされている。(七五条一項)。

二1  そこで、まず本件土地が河川法に定める河川区域に該当するか否かを検討するに、〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができる。

本件土地は、西側を本件河川、東側を県道いわき・上三坂・小野線(以下「県道」という。)、北側を津藤正方敷地と里道によって画された三角形の形状をしていて、津藤方付近を中心として同方敷地と県道に沿うように原告が施工した盛土の一部が三日月状に残存し、そこから本件代執行前に盛土が存した部分あたりまでゆるやかな法面を形成しているが、県道沿いに残存盛土を掘削すると本件河川の流水による洗掘防止等のために設置された石積が現れ、その高さが北側の低いところで二メートル余、南側で約六メートル、法面勾配約七三度で施工されており、盛土前には本件土地と県道との間にかなりの高低差があったことが窺われる。そして、残存する盛土の法下面から本件河川に至る部分は葦等が生い茂り、その南東部分に数本の立木(ネコヤナギ)が存し、北東部分では野菜畑が耕作されている。さらに、本件土地の西側部分に流木など本件河川の流水によって運ばれてきたと考えられる漂流物が多数打ち上げられ、本件河川と接する箇所ではその水流により川岸が削り取られて岩石が露出していて、本件代執行前に盛土が存した部分の西端あたりを掘削すると細かい粒子の砂で構成された地層が現れる。一方、本件河川は、本件土地の西側で接して北方向から南方向に向かって流れ、本件土地の上流には十三枚橋が架設され、本件土地付近で上流から下流に向かって左折しており、本件土地の対岸付近の流水域内に積み石が残置されたままのやな場跡が存する。

また、本件土地一帯は国土調査が未了であり、不動産登記簿上、本件土地である六三番、六五番の地目がそれぞれ「原野」であるのに対し、隣接するとされている六四番(第三者の所有名義になっている。)のそれは「川」になっていて、固定資産評価において六三番が現況非課税地となっているほか、明治二〇年ころに作成された字限図では、六三番及び六四番が「川成」、六五番が「荒地」と表示されていた、なお、本件代執行直前における本件土地付近の盛土の状況は別紙図面のとおりであって、そのうち赤色で表示された地域上の土塊が本件代執行により除却された。また、盛士が実施された範囲の地番は詳らかでないものの、原告はその範囲につき、五九番、六三番、六四番、六五番、六七番一、同番二である(別紙字限図参照)と主張する。

2  以上の事実からすると、本件河川において、本件土地付近ではその流水の作用が強く働く水衝部になっていると考えられ、その地形的にみても、周囲の土地から一段低くなっていて、自然に形成された河道状の様相を呈していることが認められるのであり、その他、本件土地の地層の状況、生茂する草木、打ち上げられた漂流物等の諸要素も併せ勘案すれば、本件土地及びその周辺土地のうち、原告が盛土を施工し後に代執行により盛土が除却された範囲(別紙図面に赤色で表示された地域)については、その状況が河川の流水が存する土地に類する状況を呈している土地ということができ、河川法六条一項一号に該当する土地として、河川管理者の指定なくして法律上当然に河川区域となるものである。右地域内に野菜畑が存していたとしても、その耕作面積はさほど広くなく、右認定を左右するものではない。

したがって、本件土地が河川法六条一項三号に該当する土地であることを前提とした原告の主張はすべて失当であり、原告が本件土地及びその周辺土地において施工した盛土行為については、代執行により盛土が除却された範囲(別紙図面に赤色で表示された地域)に関する限りは、河川法二七条一項に違反していたことが明らかである。

三  次に、原告の本件土地及び周辺土地における盛土行為に対する行政指導について検討する。前示争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、勿来事務所では、原告の盛土工事を確認した後である昭和六〇年一月二二日に工事中止を勧告したのを皮切りに、この後も原告が工事を続行していたことから、それを現認する都度、工事中止と河川法に基づく許可を受けるように指導、勧告を行っていたことが認められる。この点につき、原告は、公文書でもって指導内容を明らかにするよう求めたにもかかわらず、被告がこれに応えなかった点を非難する。しかし、勿来事務所の職員は、原告に対し、直に口頭でもって河川法違反である旨を重ねて告げており、その度に原告側で了解したように応じていた様子が窺われ、そのような当初の段階では、指導の態様として必ずしも書面をもって行うことを要しないものである。またその後、原告が河川法の許可と官民境界確定のための申請を行う意向を明らかにして、その申請書を提出するなど被告の指導に従う様子が窺われた経過に照らすと、その間において、原告に求められた文書を発しなかったことは相応の理由があると認められるし、その後、原告と福島県知事との間で官民境界につき協議が不調となり、昭和六〇年一一月二七日に勿来事務所長が初めて工事中止の指示書を発した後になっても、原告は、他の自己所有地から生ずる残土を処理する必要もあり、本件土地の盛土工事を続行していたというのであるから、結局、原告は被告の指導に従う意思がなかったとしか考えられないのであり、以上の事情からして、被告の指導に違法性を見いだすことはできない。

よって、この点に関する原告の主張は理由がない。

四  前示争いのない事実のとおり、本件代執行は、行政代執行法に定められた手続を履践してなされたと認められるが、原告は、本件代執行がその必要性も理由もなく、被告の恣意によってなされた、と強く争うので検討する。

そもそも河川は、その流水が飲料水、かんがい、農・工業用水、漁業等のために利用されて社会生活に寄与する一方で、洪水等の河川の氾濫によって、住民の生命、財産をはじめとする地域住民の生活一般に多大な損害をもたらす虞れがあることから、その管理を十全に行う必要がある。そして、前示したように、本件土地及び周辺土地において原告が盛土を施工し後に代執行により盛土が除却された地域(別紙図面に赤色で表示された地域)は河川区域内にあり、しかもそのうちの一号地に該当するものであって、その地形等が本件河川の流水に直接に影響を与えるものであるが、さらに本件土地付近が流水作用の特に強い水衝部となっているため、そこに盛土を行えば土砂が流出する虞れがあり、ひいては災害発生の原因ともなりかねないことが十分に予想されるものである。しかして、〔証拠略〕によれば、原告が右地域において施工した盛土は、本件代執行直前の段階において、別紙図面のとおり、かなり広範な範囲におよそ四万立方メートルもの土砂を半台形上に堆積させたものであるが、その南西端付近において本件河川の平常時の流水面と接する状態になってその流下断面を狭めており、出水時には水位の上昇を招いて対岸で冠水する虞れがあったというのであるから、たとえ昭和六一年時に発生した洪水の折に直接的な被害がなかったとしても、河川管理の見地から、これを放置することは著しく公益に反するというべきであるし、本件代執行が、本件河川の流水の影響がほとんどないと考えて設定した死水域を除外して、必要最小限の範囲の盛土を除却したに止まっていることも考慮すると、その必要性と理由に欠けるところはないと認められる。

本来であれば、本件土地付近の国土調査が未了であったので、まず本件河川や県道などの隣接地と境界確定を行って本件土地の範囲を確定してから、河川管理者の許可を受けたうえで盛土工事を実施するのでなければならず、しかも、その盛土が本件河川と接するために、その原因者ないしは受益者として護岸工事の負担を求められることになる(河川法六七条、七〇条)。ところが、原告は、その一連の手続を怠っていきなり盛土工事を施工していたのであり、やがて福島県知事から河川法違反の指摘を受けると、官民境界確定を申請してその確定を待って河川法に基づく許可を受けたいとの意向を示し、これが認められたならば、折しも策定中であった福島県知事の河川改修計画に合わせて本件土地の端部に護岸工事を実施して、これを福島県知事の管理に委ねるとともに、盛土を維持する予定であったというので、福島県知事においても、その実現化が見込まれたことから原告の利益に配慮して盛土除却を求めることを控えていたという経過があるところ、その後において、官民境界確定につき原告と福島県知事双方の主張が対立して合意が成立せず、原告が護岸工事を実施する見通しも立たなくなったので、盛土除却等の原状回復を求めて各戒告処分を発したうえ、本件代執行に至ったというのであるから、その過程をみる限り、福島県知事における一連の処分が恣意的になされたとは認められない。

この点につき原告は、福島県知事は不当な官民境界線を主張し、原告がこれを受け入れなかったため、見せしめ的に本件代執行を行ったと主張するが、なるほど原告の立場からみれば、福島県知事の主張する官民境界線を承服しなかったがためにこれを確定するに至らず、結局、本件代執行を受けることになったという構図になるのであろうが、そもそも本件土地と本件河川との官民境界については、原告の援用する証拠に基づいて考えても、原告が正当な境界線を提示していた事実は認められず、かえって福島県知事の提示した官民境界線こそ、本件河川の地勢及び流水の常況に照らして自然法則に合い、現に策定されている河川改修計画に沿ったものであって、同計画自体にも過大性や不合理性は認められないうえ、右主張の官民境界線に従ったとしても、本件土地を含めた周辺民有地の実面積は公簿面積より減少するどころか逆に増加するというのであるから、その点からも福島県知事の主張が不当なものとはいいがたい。先にも指摘したとおり、河川区域内に盛土してそこへ立木を仮植するなどという行為は、河川法上違法なものとして、原則的に行為者に対し搬出と除却が義務づけられるのであって、たまたま官民境界の合意が成立しないことを切掛として、原告がかかる不利益を受けたとしても、その原因は原告自らが招いたことであるから、福島県知事を非難する筋合いではない。

したがって、被告の恣意性に関する原告の主張も理由がない。

第四 結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 手島徹 石垣陽介)

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